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2017/10/12

くまのKAWABUNEプロジェクトにいってきました

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くまのKAWABUNEプロジェクトにいってきました

三重県紀宝町での職業体験

大峰山と大台ヶ原山系を源流とする熊野川。かつては地域の特産品である木材、炭石炭などを地域住民への物資輸送でにぎわっていました。また、1000年以上続くといわれるその川舟の歴史には、熊野三山参りへの“渡し”としても利用されていました。しかし、陸上運送のインフラ整備により昭和30年代に川舟はその役割を終える。

熊野川体感塾の谷上塾長は、輸送だけではなく熊野文化を表現し、熊野地域をより多くの方に感じていただくため、昭和50年代に入り川舟を復活させました。数多くの文献を基に熊野文化を表現するために。

今回は、仕事として、文化を感じるものとして、そして地域の魅力を伝える装置として、船大工の職業体験を紀宝町企画調整課様の協力の下、実施しました。

2017年10月2日から6日までの4泊5日間、三重県紀宝町にて職業体験を開催しました。三重県紀宝町企画調整課、熊野川体感塾をはじめ、紀宝町の多くの方々のご協力の下で過ごし、将来へのきっかけとなる刺激的な日々となりました。

今回の挑戦は、川舟の櫂(オール)を制作し、その櫂を使いチームで川舟を進めること。そして自分達で体感した川舟の魅力を外国人観光客向けサイトに投稿することです。
  • 三重県紀宝町での職業体験
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不安が飛んでいった初日のバーベキュー

N高等学校は通信制高校のため、実は参加するN高生同士もほぼ初対面です。参加動機は各自様々。 「ものづくりの現場を見たい」
「コミュニケーションスキルを身に付けたい」
「外国人と交流したい」

それでも共通することは、職業体験にワクワクして参加していることです。“少しでも自分を変えたい”みんな、そんな気持ちで職業体験に臨んでいます。そして期待の一方で、本当に周囲とうまくやっていけるかという不安からのドキドキもありました。

紀宝町の担当大宅さんは、そんな参加者の気持ちを汲んで、初日の夜にバーベキューを開催してくれました。バーベキューの炭を組み立てるところから挑戦します。1つの物事に協力して挑戦しているうちに、参加したN高生同士のよそよそしさはいつの間にか消えていました。夜の闇に広がる海に輝く灯りが、これからの5日間の日々を照らしているようでした。
  • 不安が飛んでいった初日のバーベキュー
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櫂制作に挑戦

2日目と3日目は、熊野川体感塾の谷上塾長と廣田先生の指導の下、川舟のオールとなる“櫂”を制作しました。怪我をしない立ち位置、設計図から作業への落とし込み、電動工具の使い方、曲線を描く工程、スピードと正確性のバランス。様々なことを学びました。一見、単純作業に見える櫂制作。

実は奥が深く、N高生の集中力は続きます。目的達成に向けて、1つのモノを完成させる、そんな仕事の基本を学びます。機械での生産と違い、手作りの櫂には個性が出ます。作り手の性格や丁寧さなど、様々な自分が反映されます。個性を大切にするN高等学校らしく、N高生は自分で作った櫂を通して、自分の個性を見つめ直します。
  • 櫂制作に挑戦
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自作の櫂で川舟を進める

谷上塾長と廣田先生に教わりながら、2日間かけて、180cmの櫂を完成させました。その櫂を使って、熊野川を下り、そして遡上して戻ります。水面からの風景はいつもの景色とがらりと変わります。水平線に続く山、ゆったりとしかし確実に流れる川、そしてどこまでも広がる空。N高生はまわりの景色が変わると共に、自分自身や自然との共生など様々なことを感じていました。

そして誰もが一番痛感したことは、1人だけでは解決できないこともあるということ。船の右側は女子、左側は男子。力強く櫂を漕ぐ男子側がなかなか進みません。焦りから漕ぎが小さくなりタイミングが合いません。個性を鍛えつつ、周囲と協同することの大切さを改めて学びました。
  • 自作の櫂で川舟を進める
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ただの道具ではない自分の櫂

景色を楽しみ、山と川と空を感じ、流れる水に時間を感じたN高生。2時間後には、協調も個性と同様に重要なことだと再確認しました。川舟から降りたN高生は名残惜しそうに川から離れようとしません。水切りやアユの手掴みをしながら、熊野川に何かを感じているようでした。

そして、自分が作り上げた櫂を大切なものを扱うようにしっかりと握りしめています。
  • ただの道具ではない自分の櫂
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紀宝町の町内視察へ

4日目は、午前中に紀宝町を視察しました。ウミガメのいる道の駅、雄大な景色の中を静かに流れる滝、熊野地域を代表する神社。様々な場所を訪れ、自然との共生、神々への信仰など紀宝町を含む熊野の文化に触れます。

地域の方々との交流、食事、櫂制作、川舟乗船、町内視察。N高生の中に、紀宝町の魅力が明確になり始めました。1つ1つの場所に訪れ、ただ観光をするだけではなく、町の魅力を探し、そして自分の将来について考えている。そんな表情が印象的でした。
  • 紀宝町の町内視察へ
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体験の後はグループワーク

職業体験中は、毎晩2~3時間のグループワークを繰り返しました。その日に“実行したこと”“知ったこと”“感じたこと”を、自分達で言葉にして共有します。そして人の言葉ではなく、体験から感じた紀宝町や川舟の魅力を自分の言葉に変えていきます。その過程を通して、自分の個性を明確にし、課題を自ら設定します。

当初は、意見を出すこと自体が難しかったグループワークも、お互いに聴く姿勢を持ち、サポーター役の大学生から考えるための切り口を教わり、活発に意見交換ができるようになりました。グループワークの成果として、外国人観光客向けサイトに英語で川舟について投稿し、また自分達の活動を紀宝町役場にてプレゼンをしました。
  • 体験の後はグループワーク
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農家民泊での交流

職業体験だからといって、作業体験やグループワークをしているだけではありません。今回は農家民泊で地域の方々とも交流をしました。お世話になったのは、はなあそびさん、るん家さん。地域の食材を使った料理をいただき、誰に指示されるわけでもなく、食事の準備や片づけをN高生が手伝います。中には、早朝に起きて民泊先のお母さんの朝食準備を手伝うN高生もいます。

食事はみんなで楽しく食べ、グループワークの後は、夏の終わりを感じる花火。机の前では学べない、人と人とのつながりから学べる何かがそこにはあります。
  • 農家民泊での交流
  • 農家民泊での交流

5日間で体感したすべてを、多くの人に伝えたい

様々な経験をした紀宝町での職業体験。あっという間の5日間でした。最終日は、お世話になった地域のみなさまに向けてプレゼンを行ないました。自分達が学んだこと。そしてどうすれば紀宝町に訪れる外国人観光客が増えるのか。自分達が体感したからこそ、絶対に紀宝町に来てもらえれば、満足してもらえる。そんな気持ちを相手に伝えることに挑戦しました。
3人でチームを組み、2チームが投稿した英語でのレビューは以下をクリックしてご覧ください。

【クリック】熊野川体感塾

自分がしたこと、感じたことを自らの言葉で表現することの大切さを知りました。修了式後のN高生の表情には緊張も不安もありません。1つの挑戦を乗り越え、多くの学びを得て変わった自分に自信がついたようです。将来へのきっかけを掴みながら、彼らはまたあらたな旅に出ます。
  • 5日間で体感したすべてを、多くの人に伝えたい
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