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2017. 12. 14

広島県大崎上島町に観光職員体験に行ってきました

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完全離島での交流から将来のきっかけを掴む

瀬戸内海に位置する島々、広島県大崎上島町。日本神話の神々も訪れ、海賊が立ち寄ったという歴史を持ち、古くは造船業で栄えた場所です。近年は特産品であるレモンなどの農業の6次産業化(※01)も進めています。産業構造は3次産業の割合が高く、一見すると日本の各地に多々ある元気な地域と変わりがないように思えます。

しかし、大崎上島町には人を惹きつける何かがあるようで、近年、この島には交流人口の増加と共に、いわゆるIターン移住者が増えてきています。20~30代の移住者、定年退職後の旅行客。幅広い世代の人々を大崎上島町は魅了しています。

そんな大崎上島町の課題は、交流人口の増加やIターン希望者の理由が明確になっていないことです。島内の住民からすれば当たり前のコトがなぜか島外の人々を惹きつける。さらなる交流の活発化のために、島外目線で大崎上島町の魅力を発信する必要性があるのです。

同時に大崎上島町は、教育に力を入れている町です。大崎上島学として、幼少期から島の歴史を子供たちに主体的に学ばせています。それは、子供たちにとって人生の羅針盤となる学びです。

N高等学校では、職業知識を手に入れるだけではなく、交流を通してライフスキルを身に付け、ミッションへの挑戦を通して自分たちの強みを見つけ、そして将来への気づきを得られる職業体験プログラムを各地で開催しています。大崎上島町とN高等学校が意見交換をする中で、大崎上島町の情報発信の重要性や、子供たちの主体的な気づきや学びを重視する姿勢を知り、今回の職業体験“観光職員体験”の実施へと繋がりました。

(左)大崎上島の高台から見る、瀬戸内海に浮かぶ光の道 (右)完全離島の大崎上島へはフェリーで移動

参加N高生に課されたミッション

入島式兼開校式では、大崎上島町地域経営課森下課長より大崎上島町の現状についてお話をしていただきました。情報発信における既存の大崎上島町の強みは“日本で一番多数の島が見える山”など、産業を含めた有形資源でした。しかし、島外の人々を魅了しているのは、目に見えないものかもしれません。

「どうしても島内視点の情報発信になってしまう。島外視点で大崎上島町の魅力を整理して、どのように島外に届けるのか。これが解決すべき課題です」と、森下課長。

さらに、大崎上島町観光協会の南和希事務局長に、情報発信のプロとしてオリエンテーションをしていただきました。「モノ消費からコト消費への変化」、「ニーズの多様化」、「目に見えない空気感」、「交流」、「圧倒的感情」。現代における観光業のキーワードを学びました。

そして、8名のN高生にミッションが与えられました。
「体験を通して、自分たちの感覚で大崎上島町の目に見えない魅力の秘密を言葉にしてください」

このミッションにN高生たちがどのように挑み続けたか、N高等学校 諸企業体験事務局職員の為野がレポートします。

(左)地域振興課森下課長様より問題点共有        (右)観光協会南事務局長様よりミッション

レモン収穫&加工体験

大崎上島町でレモン農家を営む大阪からのIターン移住者の岩崎夫妻。竹原や大崎上島を含む一帯は、日本有数のレモンの収穫量を誇ります。国産レモンの香り、皮まで利用できる有機栽培。レモンジャムをはじめ、多くの加工食品も製造しています。また、多くの企業とタイアップをし、レモンの普及や商品開発にも取り組んでいます。

N高生は、岩崎さんにレモンの選び方、切り方を学び、自分たちがつくるジャムのために黄色のカゴ一杯のレモンを穫ります。11月から12月上旬はレモンの旬と言われています。緑色のレモンが黄色に色づき始める時期。緑色のレモンは香り高く、黄色のレモンは果肉をジャムなどに利用します。海や島々を眺めながらゆっくりと、しかし確実に自分がつくるジャムを想像しながらレモンをカゴに詰めていきます。

50kgものレモンを収穫した後は、加工場に移動してレモンジャムづくりに挑戦しました。お菓子づくりが趣味のN高生もいれば、包丁を持ったことがないN高生もいます。岩崎さんに包丁の持ち方から教わり、レモンの皮を剥き、輪切りにし、鍋でグラニュー糖とともにじっくりと煮込みます。白い薄皮にペクチンが含まれ、苦みと共に凝固成分が入っています。

自分が食べるものを収穫し、加工し、商品にする。その一連の流れの中で、チームで役割分担をして進めます。完成品のイメージを共有しながら協力する過程でグループからチームへと変化していきます。レモンを手で撫でるだけで漂う芳醇な香り。その場で体感をしなければ、感じられないモノがそこにありました。

(左)真剣なまなざしでレモンを収穫           (左)黄色と緑色のバランスを取ったレモン

(左)切り目を入れただけで漂う芳醇な香り      (右)想いと共にレモンジャムを詰め込む

大崎上島町でアクティビティ体験

大崎上島町は、産業だけではなく、自然に恵まれた町です。四方を海に囲まれ橋のかからない完全離島。同時に、島は1つの山のような形状になっています。島の住民の方々も旅行者も海と山を両方楽しめます。釣りでゆったりとした時間を味わったり、神峰山に登って島々の雄大さを眺めたり。

今回、N高生は2人乗りカヤックに挑戦しました。大崎上島シーカヤックの金原さんに、パドルの使い方、曲がり方、止まり方などの基本技術を教わります。はじめは、白い砂浜、透明な海、遠くに眺める島々に喜んでいたN高生。しかし、カヤックに乗り始めて気づきます。教わったことと実際にやるのでは違う。そして慣れてくると次に気づくのは、1人のパワーよりも2人の呼吸でカヤックのスピードが決まること。

体験をフィードバックするグループワーク

仕事体験、アクティビティ、温泉、民泊、交流。さまざまな体験を通して、肌感覚で大崎上島町の魅力を感じたN高生。毎日夕方2時間半のグループワークを行ないました。

島外目線での大崎上島町の魅力とは何か。目に見える資源を土台に、「ないものがある」。これが彼らの答えでした。地域の方々の距離感、やさしさ、あたたかさ、そしてゆったりとした時間の中で、自分の気持ちに正直になれる場所。

この目に見えづらい魅力を見える化するために、ペルソナを作成しました。ペルソナとは、顧客像の定量分析を箇条書きにするだけではなく、理想的な顧客の定性分析も含めた像を作成したものです。

自分たちが肌で感じた大崎上島町の魅力を必要としている人は誰か。Iターンや交流に訪れる方の特徴は何か。島の魅力で救われる人は誰か。そして、自分たちが抱えていた問題やその解消もペルソナの中に反映させていきます。活発な議論、沈黙の時間、ぶつかり合い、笑い、涙。その結果、2つのペルソナとそれに対する情報発信の仕方が完成しました。

(左)付箋を使って徹底的にアイデアを出し合う   (右)真剣にプレゼン資料をつくる

最終日のプレゼンテーション

2つのグループはそれぞれペルソナをつくりました。

・ペルソナ:米倉華衣(23歳):理想と現実のギャップに悩み、向上心から築いたアイデンティティが揺らぎ始めた人
・ペルソナ:女子力アピールにうるさいインスタ女子

つくったペルソナが、大崎上島町で何を体験し、何を感じ、そしてどのような気持ちの変化があるのかをまとめました。最終日には、大崎上島町役場にて副町長をはじめ多くの役場の方々や地域住民の方々にプレゼンを実施しました。

大崎上島町地域経営課森下課長からのコメント
「理想と現実のギャップに悩む島外の方々が持つ不安な気持ち。本音が言えて、感情が言葉になり、心が軽くなる感覚。そういった、みなさんが体感してくれた目に見えないモノを言葉にしてくれました。大崎上島町としても、“リフレッシュ”を島外の方々に刺さる言葉にし、プラン化を検討しているところです。また、両グループに帰宅後も考えて欲しい課題は、目的設定と写真のアピール方法です。交流人口を増やす際に、大人数を対象とするか、少人数を対象にするかによって、プランも目的も異なります。少人数を対象にするのであれば、リピートや愛着への戦略が欲しいです。また、島に来たからこそ実感できる魅力を写真でどのように表現すべきかを検討していただきたい」

(左)設定したペルソナの説明      (右)実際に投稿したインスタ

5日間を通して残ったもの

大崎上島町での5日間。8人のN高生の参加目的はさまざまでした。
“地元広島の魅力を整理したい”
“グループワークのスキルを身に付けたい”
“コミュニケーションスキルを身に付けたい”
“大自然や交流を通して発見を得たい”

8人は、観光職員として問題意識を持ち、各プログラムに取り組む中で、ふとした時に空や海を眺めていました。自分の気持ちとは何か。自分の状況はどうなっているか。島での体験や交流を通して、自分を見つめ直し、自らの進む道を選択していきます。

働くことへの挑戦と共に、8人を支えたのは、民泊先のご家庭でした。家族のように受け入れていただき、家族のように時間を楽しみ、家族のように考えを交換する。心地よくも刺激的な“帰りたくなる場所”。それが大崎上島にはありました。

「また必ず戻ってきます」フェリーに乗り込みながら発した生徒の言葉に、いつまでも大崎上島町のみなさんは黄色のハンカチを振ってくださいました。

(左)神峰山から望む島々を広がる海      (右)美しい海岸で流れる空に何をみる

(左)民泊先のご家庭は帰りたくなる場所    (右)また会う日まで

参加者の声

▽自分自身の振り返り
多種多様な人がいることがかったから、一人一人に合った対応ができるようになりたいと思った。指示を待ってたら何も進まないことが身に染みてわかったから、少しずつ自分の意見を持ち、行動に移せるようになりたいとも思った。

▽交流への感想
今まで狭い範囲の特定の人達との交流しかなかったけど、この機会に様々な私たちの住んでる所とは環境がちがう方々のお話を聞いて、ほんの少しだけ自分の世界が広がるような経験になったとおもいます。大崎上島町は、また帰りたくなる場所です。

▽経験を通した体感
初めて会う人、初めて行く場所だったからこそ新鮮で充実した体験ができたと思った。この体験によって、自分の新しい一面や、将来やりたいことが増えたりと、とても有意義な経験になった。