
N高起業部の倉田速音さん(代々木キャンパス)は、自分自身が「尋常性白斑」という難病を抱えていることから“UVカット機能のついたお洒落な洋服を提供するアパレルブランド”の立ち上げを目指しています。
これまでビジネスモデルやブランドコンセプトなど、事業プラン作りに試行錯誤してきました。昨年は「何をしたいかわからなくなって不安ばかりだった」と語るほど、苦しい日々も多くありました。
いよいよ洋服製作を始めることを決心したものの、何から手をつければ良いのか、実際に自分の頭の中にあるプランを具現化するにはどうしたらいいのか、見当もつきません。再び迷う日々が続いていました。
しかし、起業部でお世話になっているデロイトトーマツベンチャーサポート株式会社様のメンターを中心に、さまざまな大人に相談を繰り返し続けた結果、過去にファッションブランドを立ち上げた経験のある方と巡り合い、さらにその方からの繋がりで、洋服作りのプロフェッショナルチームに出会うことができたのです。
今回巡り合ったのは、アミアズ株式会社様(以下、アミアズ社)。「ファッションに幸せなイノベーションを」というビジョンを掲げられている、知る人ぞ知るビジョナリーカンパニーです。
社長の財間宣彰さんは、洋服と繊維を誰よりも愛する情熱家。単純なモノとしての洋服作りではなく、想いと想いが織り合わさったプロダクトとしての洋服作りを実践されています。
初回のミーティング。初対面の財間社長を前に、倉田さんがプレゼンします。なぜ洋服を作りたいのか、どんな洋服を作りたいのか、自分の病気のこと、これまでのアクションについて……。
財間社長からは、プロだけが知る繊維や糸の話をたくさん聞かせていただきました。
その日から具体的な洋服作りがスタートし、まず、倉田さんが作りたい洋服のイメージを財間社長に共有することから始まりました。
何を作りたいのか、どのような素材やカラーが良いのか。メールなども使い、細かな仕様の希望を伝えていきました。

そして、2回目のミーティング。
倉田さんから出された希望をもとに、財間社長が生地サンプルを用意してくださいました。
いよいよそのサンプルをもとに、生地選びが進む!と思っていましたが……。
現実はそんなに甘くはありませんでした。最終的にお客様の手に洋服を届けるために、考えなければいけないこと、決めなければいけないことがたくさんありました。
具体的にいつ販売をスタートさせるのか?
どのシーズンを対象にするのか?
逆算すると、いつまでにデザインを決めなければいけないのか?
資金集めの目処は?
1つのプロダクトを完成させるまでに、どのような道筋をつけ、どのような手順で行動を進める必要があるのか。大前提となる点についてのディスカッションが行われました。
そんな中、倉田さんから「実はこんな服も作りたくて」と、これまでとは趣きの異なる別案スケッチが財間社長に手渡されました。

しばらく沈黙があった後、財間社長が口を開きました。
「本当にお客様に届けたいことは何?オリジナリティを求めすぎて、本当に届けたいものが見えない」
「あなたが着たいものではなく、お客様が着たい!と思えるものになっているかな?」
次々と倉田さんへの質問が投げかけられます。
一つひとつの言葉が、倉田さんのハートを容赦なく射抜いていきます。起業部員、倉田速音もさすがに言葉が出ません。
財間社長は最後にこう話してくれました。
「心の底から本当に届けたいと思うものを作ろう」
「自分のためではなく、相手に何を届けたいのかを考えよう」
「そのためにも自分との対話、自問自答をもっとしないとダメだよ」
この言葉に、倉田さんはハッと我に返った表情になりました。
たかがファッション。されど、ファッション。それは、作り手と服を着る人のコミュニケーション。
とても大切な本質に気づかされた1日になりました。
アミアズ社を後にした倉田さん、帰り際に明るい表情でこう語りました。
「本当に何を届けたいのか、しっかり考えてみます。社長にガツンと言ってもらえて本当に良かったです!」
前向きな言葉に、こちらが元気づけられたとともに、今回のチャレンジへの本気が見えました。
さあ、ここから倉田さんのどのような快進撃が始まるのでしょうか。
『高校生ファッションブランド誕生物語』は不定期につづく連載です。
次回をお楽しみに!