
※このブログは、神戸キャンパス1年生、岩本聖さんに書いてもらいました。
「新しい資本主義ってなんだろう?」
そう問いかけるのはN/S高投資部の特別顧問である村上世彰氏だ。皆さんはこの問いに答えられるだろうか?
今回私たちは、年に3回開催される村上氏による特別講義を受けた。もしかしたらこのブログを読まれている方の中には「村上世彰って……?」と思う方もいるかもしれないので簡単に説明しよう。
村上世彰氏は旧通商産業省(現経済産業省)出身で独立後、投資やM&A(企業の買収・合併)のコンサルティングを核とした「村上ファンド」を設立した。若い世代にはあまり聞きなじみのない単語だろうが、かつては知らない人はいなかった有名なファンドだ。
また、村上氏自身もアクティビスト、いわゆる「もの言う株主」としても有名である。
経営資源がきちんと活用されていない会社の株を買い、積極的に経営に関わっていくという手法をとるところが村上氏が「もの言う株主」と呼ばれる由縁である。
そんな村上氏による今回の特別講義では、新しい資本主義・これからの日本の衰退・村上氏の投資におけるスタンスや哲学などについてお話をしていただいた。
内容については、事前に部員たちが質問を送っており、それをまとめた形となっている。ここのブログでは、講義内容についていくつかピックアップしたものを書いていこうと思う。
まずは「新しい資本主義」に関してのこと。書き出しで偉そうなことを書いたものの、私も聞かれた時は内心非常に焦っていた。
私の認識としては「ああ、あの新首相が言ってたな」程度のものであり、特に調べることもしていなかったので何もわかっていない状況だ。周りも私と同じような認識なのかあまり手が挙がらない。
村上氏はこう語る。「岸田総理が言っているのは分配政策なんだよね。特定の人だけにお金が渡るのではなくて、もっと分配しようよって言ってるんだ。だから、中間層をもっと厚くしていこうっていう話なんだ」
なるほど。確かに昨今、貧富の差が拡大しているとニュースになっている。こういった方法で是正を行おうとするのもわからなくはない。
しかし、村上氏はこうも語る。「うーん。でも恣意的(しいてき:論理的な必然性がなく、勝手気まま、思うままにふるまうこと)に中間層を厚くするって絶対にできないと思うよ、すごく難しい。それであれば稼ぐ人はドンドン稼いでください、税金も上げませんと。それよりも、お金をため込んでいる人に保有税というか資産課税を掛けてお金がグルグル回る方が良い。僕はそう思っているんです」
確かに。分配しようにも稼ぐ人がいなくなったら分配するお金がなくなってしまう。それであれば、一定以上の資産を持つ人々に資産課税を掛ける方が効果的だと思う。
しかし、当然疑問点は出てくる。ある部員がこんな質問を村上氏に投げかけた。「資産課税をしちゃうと、資本家たちが日本からどんどん出て行っちゃって、結局日本が貧乏になっちゃうってことはないんですかね?」
なかなか鋭い質問だ。資本家たちが出て行って日本にお金がなくなるということも想定される。
その質問に対し、村上氏はこう答えた。「あると思います、でも大して出ていきません。例えば、僕。僕が一番儲けてるのは日本なんだよね。で、日本から出て行くことは日本の資産を放棄することになるのね。資産課税といってもせいぜい1%程度ですよ。日本の資産って大体三千兆円くらいあるのね、1%課税しても30兆円になるんです。消費税よりもっと取れる。でね、持ってる資産を動かすって辛いんですよ。他にも外に出せないもの、例えば土地とかがある。だから結構有効だと思うんですよ」
岸田総理が一時期テレビなどで「金融所得課税の強化」を推していた。金融所得課税を現在の20%から30%に引き上げることによって、約3000億円の増収が見込めるそうだ。
もちろんどちらの方がより効果的かおわかりだろう。ちなみにその金融所得課税の強化発言以降、他の理由もあったにせよ、日経平均株価は8営業日連続下落を記録し下落幅は8日間で2700円を超えた。
「ただ、(資産課税強化を行うと)金持ちはめちゃくちゃ怒る。で、多分僕が一番の旗振り役になって『やっちまえ』と。『1%くらいは払おうよ』と(するのがいいのではないか)」
村上氏も資産課税の強化が行われたら間違いなく損をする側の人間だ。その立場の人間がここまで言い切れるのは素直にすごいと感じた。著名人であり、発言や行動は何かと注目される。一旦発言したことはそうそう取り消せない。それを承知した上ではっきり言い切った。これは相当覚悟がないとなかなかできないことだ。
その後も日本経済について、村上氏がアメリカに住んでみて体感したこと、部員が考えた質問への返答など。まだまだ書き連ねたいことはたくさんあるが割愛させていただく。
しかし、最後にこれだけは書いておきたい。
村上氏が講義の冒頭で発言したことだ。「こういう質問があってね、下がり始めた恐怖心で(所有している株を)売ってしまうメンタルの弱さを、どうしたらよいのか? どういう時に売ったらいいのか?って」
私もその気持ちはよくわかる。株式の売買の時、買い時も大事だが売り時も非常に重要である。売り時をミスれば、本来なら利益が出たはずのところ損が出てしまうなんてこともある。
村上氏は続けて発言する。「そのためにこの授業やってんの。要はもっとメンタルボロボロになってくださいと。でもね皆さん、損するのは私ですよ(※1)。こういう経験をしながらお金の怖さを味わってほしい。これがこの授業のエッセンスなんですよ、一番の。」
※1 投資部員は、村上氏が創設した 一般財団法人村上財団や当学園から提供される運用資金を元手に株式投資に挑戦しています。
非常に衝撃的だった。メンタルの弱さへの対処法を教えてくれるのかと思ったら、まさか「もっとメンタルボロボロになりなさい」と言われるとは思ってもいなかった。
だが、村上氏の言う通りだ。部員たちは村上氏に資金を提供していただき、自分たちは一切リスクを負っていないのだ。こんな千載一遇とも言えるような機会を無駄にするのは非常にもったいない。
正直、私は投資部の活動を普段から自分が行っている投資の延長線上としか捉えてなかった。しかし、投資部はたくさんのよい機会に恵まれた非常に素晴らしいところだったのだと改めて思い知った。
そして、これは何も投資だけの話ではない。お金というものは現実世界を生きるにあたって、間違いなく必要なものだ。お金がすべてではないが、お金は人生の選択肢の幅を広げてくれる便利な“ツール”だ。
だが、時に本質を見失って不幸になる人もたくさんいる。お金への恐怖心、お金との正しい付き合い方。そういったものを高校生のうちに知れること。これは将来に向けた非常に価値のある経験になると思う。
年に数回だけの村上氏の講義。これからも投資部の仲間と共に切磋琢磨し合い、貴重な講義を無駄にせぬよう全力で頑張っていきたい。
※2 この記事の内容の村上氏の講義動画はこちらからご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=O1dD3qU_D1Y
N/S高投資部 HP:https://nnn.ed.jp/club/investment/
N/S高投資部 Twitter:https://twitter.com/N_investors