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「令和の日本型学校教育」の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する
調査研究協力者会議 「審議まとめ案」に対する意見

N高等学校 校長 奥平博一

S高等学校 校長 吉村総一郎

 

2022年8月、文部科学省の「令和の日本型学校教育」の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する調査研究協力者会議において、これまでの議論を踏まえた「審議まとめ案」(以下「まとめ案」)が示されました。「まとめ案」では、通信制高校を取り巻く現状・課題を踏まえつつ、初等中等教育の最後の段階である教育機関として、「知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力・人間性等を確実に育成し、生徒一人一人の能力を最大限引き出していくことが重要」であり、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を通じた主体的・対話的で深い学びを実現するための指導方法の見直し」が必要としています。

 

この度の「まとめ案」の方針を踏まえ、通信制各校において運営がより適切に、透明性をもって行われるべきことは論をまちません。しかしながら、各校の創意工夫や自助努力を包摂する余地のない過剰な事前規制を課すことは、個々の生徒に真に寄り添った教育活動の障壁となるばかりでなく、高校教育全体の可能性を失わせ、将来にわたって生徒の学びや人間的成長を妨げることにもなりかねないと危惧するものです。

 

コロナ禍によって、世界的にもオンラインと対面の良さを活用したハイブリッド型の教育が目指されています。すでにわが国においても、政府全体でSociety 5.0が推進されているところです。オンラインを最大限に活用しつつ、他者との対話や協働による学びを模索してきた通信制高校は、このような新時代の教育に可能性を示し得るものと自負しています。

 

「まとめ案」で述べられている『一人一人の「生徒を主語とした」高等学校教育の実現に向けて』、以下の通り意見を申し述べます。

1.生徒をラベリングして議論するべきではない

 

「まとめ案」では、対象となる通信制高校の生徒像について「特に、様々な事情を抱えた生徒が在籍している通信制高等学校においては、全日制・定時制課程以上に、生徒一人一人の実態に応じて、伴走して支援を行う体制を構築していくことが必要である」「現在、不登校経験者など多様な生徒が多数在籍し、自立した学習者として自学自習を行う勤労青年を対象の中心としていた時代とは異なる状況」といった表現が用いられています。これは、全日制をスタンダードとする旧来の価値観によって通信制の生徒をことさらに特別視しており、一般的な高校生とは別の属性であるかのような偏ったイメージを与えかねないものです。

 

実際、当学園の生徒は、自らに最も適した学び方ができるのはどこであるかをフラットに、かつ主体的に考え、その結果として積極的に通信制を選んで入学しています。効率的で自由な学びが可能な環境を大いに活用して、自身の目標や将来の夢に向けて行動している生徒が多数在籍しています。

 

生徒の実態や個性に応じた支援の重要性は、通信制高校に限らず全日制・定時制高校含めすべての教育機関に共通のものです。将来に向けて、通信制高校の新たな未来像を示すべき「まとめ案」において、上記のようなラベリングを前提として議論を進めることは、誤った施策や規制に繋がりかねないことを懸念します。

2.学習における一律の時間的・量的規制は生徒の自由な学びの妨げになるので行うべきではない

 

現行の高等学校学習指導要領は、「35単位時間の授業を1単位として計算することを標準とする」と規定しつつも、通信制課程については、特例として、各教科・科目の1単位あたりの添削指導回数と面接指導の単位時間のみを規定しています。これに基づき、通信制各校では、在籍生徒の特性を考慮しながら「思考力・判断力・表現力を育む観点」を重視して添削指導、面接指導および試験を設計しています。

 

しかし、今回の「まとめ案」では、通信制においても一律に「1単位あたり35単位時間の学習時間」を標準とした設計を求めることとされ、添削課題や試験に一定量の記述式を取り入れるべきなど、現行の学習指導要領の範囲を超える時間的・量的な枠を定める議論がなされています。このような一律の時間的・量的基準は、「個別最適な学び」の方向性と矛盾するものであり、逆に生徒の学びの妨げになりかねません。

 

「個別最適な学び」には、生徒一人一人の状況に応じた学習設計が必要です。通信制高校を選択する生徒の中には、効率的に学びながら自分の将来につながるスキルの習得に時間をかけたい生徒、スポーツや文化芸能活動を優先的に行いたい生徒など、一人一人にさまざまなニーズがあります。教科学習においても、義務教育段階からじっくり復習したいと望む生徒もいれば、早期に先の段階へ進みたい生徒、大学レベルの内容まで深く学びたい生徒もいます。

 

当学園では、ネットを用いて、小中学校の復習や大学受験、海外大学受験にも対応し、プログラミングや職業体験などの実用的コンテンツ、また、投資部、起業部のように専門家のアドバイスを受けながら実社会を体験できる場など、多種多様な学び方を可能にしています。

 

個別最適とは、それぞれの希望や特性に合った学びの場を提供することであり、生徒の多様性を鑑みれば、個々の状況を考慮しない一律の時間・分量の基準は、生徒にとって何ら意味を持たず、負担にしかなりません。エビデンスのないままに時間や分量の数値基準を設けたとしても、各教科・科目の目標達成との因果関係は不明確であり、生徒の多様性に反して負担を強いる理由にはなりません。

 

生徒一人一人がその学校で実現したいことをできる限り支援するのが、本来の姿であり、多様な生徒のニーズを見極め、それぞれに適切な学びの場を設けることこそが、一人一人の能力を最大限引き出す、個別最適な学びを実現することにつながるはずです。

 

なお、「多様性の尊重」という点で付言すれば、メディア授業による面接指導代替を認めていくことを検討することの方が、より生徒の個々の実態に応じた建設的な議論につながり、実質的であるとも言えます。現状でも、心身の事情などで面接指導の場に参加することに困難を抱え、相当な無理を重ねている生徒や、残念ながら学業を断念してしまう生徒もいます。情報技術の発達により、現時点でも対面と遜色のない授業ができるようになっており、今後も、新たな技術とともにさまざまな方法が開発されていくものと考えます。メディア授業が面接指導として認められれば、これまで学業を断念せざるを得なかった生徒にも学びの機会が広がることになります。既存の方法にとらわれることなく、あらゆる方法を駆使して、すべての生徒に学びの機会を開くための議論をしてこそ、『一人一人の「生徒を主語とした」高等学校教育の実現』が果たされるのではないでしょうか。

3.教員免許に固執し多様な社会人や専門人材が教育に参画する道を閉ざすべきではない

 

近年、学校の過重負担や教師の働き方改革が課題となる中で、地域住民や専門人材の協力のもと、学校の枠組みを超えて社会全体で子どもに関わろうとする動きが進んでいます。部活動の指導、学校の安全確保や子どもたちの心身のケア、ICTや外国語に関するサポートなど、教師以外の人が担うべき分野は、今後も確実に増加・拡大していきます。多様な人材の参画による「チーム型教育」こそ、今後の学校のあるべき姿です。通信制高校における学校外人材の参画、チーム型支援の重要性については、まとめ案の策定に携わる調査研究協力者会議の中でも複数の委員が言及しています。

 

しかしながら、「まとめ案」では、「少なくとも生徒数80人当たり教諭等が1名以上必要であることを基準として設定していくべきである」と、多様な社会人や専門人材の配置に重きを置くよりも、むしろ教員免許に固執した人材配置に重きを置く議論がなされています。

 

従来の通信制高校に対する最小限の基準であれば、各学校において、生徒の実態やニーズに即した人材採用や人員配置が可能でした。先に述べたような学校外の多様な人材にもある程度柔軟に参画してもらうことができ、この制度設計は、通信制高校の生徒が求める多種多様な学びを提供する上で、重要な要素になっていました。しかし、今回の「まとめ案」に示された教員免許に重きを置く規制は、このような人材の教育への参画を困難にし、各校の自由な取り組みを妨げるものであり、「個別最適な学び」の方向性とは乖離しているものとしてきわめて遺憾です。

 

当学園では、教員と専門人材等を合わせた教育スタッフによる「分業制」「チーム制」を導入しています。日々の教育活動を、教員免許を持つ教員が行う添削指導・面接指導・試験業務のほか、日常の生徒指導を担当するメンター業務、進路・面接対策指導、職業体験等の体験型学習、学校行事や部活動、保健安全や教務事務などの支援専門分野に区分した上で、各分野に教員のみならず専門人材や専従職員による専門チームを置いて分業化し、事案に応じて各チームが連携して生徒を支援する体制を構築しております。相互の連携や支援の記録はICTツールを活用して密にとり、一人の生徒の活動を、常に複数の大人が見守っていくよう努めております。メンター業務についても、一人のメンターにすべてを任せるのではなく、複数人のメンターでチームを作り、相互にカバーできる体制としています。

 

全体では、教員を含めて生徒約42名に1人の割合で常勤教育スタッフを配置しており、非常勤スタッフも含めれば、さらに多くのスタッフが生徒に関わっています。

 

今後、インターネットなどの資源を最大限活用し、答えのない課題に能動的・協働的に取り組む力を養う21世紀型の教育では、指導する側の資質能力こそが厳しく問われることになります。一人の教師で対応できる範囲は限られており、単に教員免許を持つ教員一人あたりの生徒数が少なければ少ないほど教育の質が向上する、というロジック自体が、当を得たものとは言えません。これからの教育を維持し、可能性を広げるためには、より幅広く、優れた人材の参画を促す方策が不可欠です。

 

にもかかわらず、ここで新たな規制を設け、教員免許のみに固執して、限られた範囲内での人員確保に向かうのは、完全に時代に逆行したものと言わざるを得ません。多様な人材が教育に参画する道を閉ざし、各校の自由な取り組みを妨げ、生徒の将来の可能性を狭めることにもなりかねないと強く危惧します。

 

「まとめ案」においても、生徒の多様化への配慮に再三言及されています。であればなおさら、他方でこれを否定するようなメッセージを発するべきではありません。

 

当学園の実践例をあげるまでもなく、分業制やチーム制による多様な社会人の参画は、教師が全てを抱える20世紀型の教育の課題を克服することにつながります。教師以外の多くの社会人や専門人材と接する機会は、確実に生徒の視野を広げ、思考の深化を促します。生徒一人一人にきめ細かく対応し、その可能性を伸ばすだけでなく、働く教職員にも望ましい教育を実現できるはずです。

 

その上でなお、教職員の人数について何らかの基準を設けるのであれば、少なくとも教員免許保有者の人数ではなく、生徒に関わる教育スタッフの総数で判断することが適切であると考えます。

 

生徒一人一人の能力を引き出す「個別最適で協働的な学び」を実現するためには、個々の多様性を尊重し、幅広い人材の参画を得て、新しい教育の形を追究し、学びの選択肢を増やすことが必要です。これを基本として、事前の規制ではなく事後のチェックを手厚くすることにより、各校の自由な発想に根ざした活動と、質の保証とを両立させていくことが重要になります。

 

ごく一部の学校で不適切な運営事例が見られたことを理由に、全ての学校に対して新たな事前規制をかけることは、大多数の生徒および学校にとってはいたずらに負担を増やし、生徒のニーズからますますかけ離れていってしまうことにしかなりません。これによって生徒が自由な学びを妨げられたり、各校の生徒のニーズに即した人員配置が制限されてしまっては全くの本末転倒です。

 

また、質保証の重要なファクターとなる事後チェックについては、第三者評価の積極的活用も推進されているところです。質保証の議論は通信制のみでなし得るものではなく、高校教育全体で考えるべきであり、第三者評価を中心とする事後チェックの在り方については、全日制・定時制もあわせての制度設計が必要であると考えます。

 

総じて、今回の「まとめ案」の問題は、21世紀型教育に、従来の20世紀型教育の枠を当てはめようとしている点にあります。当学園は通信制高校の一員として、「ネットを駆使した未来の学校」を目指し、オンライン・デジタルを最大限活用して21世紀型の新しい教育の実現に取り組んできました。今後も、すべての学校がそれぞれの特色を生かし、一人一人の生徒を主語とした高校教育が実現されるよう、各校の積極的取り組みを後押しする弾力的な基準が作成されることを心から期待します。

 

以上

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